あーーー、ショックです。
数日前のことなのに、いまだショックが冷めやらず、ずっとそのことばかり考えています。
それは、通信制大学の准教授、A先生の言葉。
あまりにも正論で、あまりにも身に沁みて、返す言葉が見つからないくらいでした。
大学の仲間数名と久々に集まって、A先生を囲んで飲んだときのこと。私がやりたい分野はA先生のご専門とは違うので、直接教えを乞うたことはないのですが、行事でのスピーチや友人たちの口コミから、学生思いの熱血先生だということは、それとなく知っていました。
その日集まった仲間の半分は、既に学部を卒業し、同じ通信制の修士に進んでいます。そのうちのお一人が、A先生に、私ともう一人の学部生を紹介してくれたのです。「この2人、卒論を前にして今年度は休学するんですけど、何かアドバイスしてあげて下さい」と。せっかくの機会なので、私が卒論テーマに目論んでいることや、そのテーマを選んだ理由などを聞いて頂きました。
実は、私が卒論テーマに選んだことは、一番やってみたいと思っていることとは少し違います。もともとは漠然と美術鑑賞が好きなだけで、美術史の知識もろくになかった私にとって、いきなりそんな壮大で抽象的なテーマを掲げるのは明らかに無理だと思い、学部生として比較的取り組みやすい、基礎的なテーマを選んだのです。
つまり、いきなり本丸を攻めるのは無理だから、まずは外堀りを埋めようという作戦。多くの先輩や先生たちに、「とにかくテーマを絞り込め、学部生として実現可能な研究をしろ」と口を酸っぱくして言われてきたので、これは妥当だと考えていましたし、ゼミの先生にもそれでいいと言われていました。
でも、実現可能性ばかりを重視していたので、最初からテーマを絞り込み過ぎているなあと薄々気づいてはいたのです。休学の理由は色々あるものの(こちらを参照)、これまでの下調べを白紙に戻して、休学中に改めてテーマを考え直そうというのも、その理由のひとつでした。
すると、A先生に訊かれました。「そもそも何をやりたいの?」と。
いや、実は、本当はこんなことを考えているんですけど、こんな大それたテーマを掲げてはダメですよねぇ…と、取り組みたいテーマをおずおずと話してみると、力強く返されました。
「じゃあ、それをやればいいじゃない!」
…えええ~~っ!? たかだか学部生の分際で!?
「何言ってるの、学部生だからこそ、一番やりたいことをテーマに掲げなきゃダメなんですよ!」
「あのね、生意気でもいいし、見当違いでもいいの。見当違いだったら、教員がダメ出しするから。でも、そこで『はい、そうですか』って諦めちゃダメなんだよ。ダメ出しされたら、そこで初めて足りない部分を補えばいいんです」
「『私は基礎がなってないから、まずは基礎を固めなくちゃ』なんてやっていたら、自分が本当にやりたいことには一生かかっても取り組めないよ。とにかく、壮大でも無謀でもいいから、学部生だからこそ、一番やりたいことに取り組まなくちゃダメ!」
「いいじゃない、その(私が本当にやりたいと思っている)テーマ。面白いよ、そこまで考えてるんだから、きっとできるよ!」
「いいんだよ、壮大で。(修士の仲間達を指さしながら)『あなたたちのやってることなんて、しょせん小さいのよね~』って、大きく出てりゃあいいんだよ!」(一同爆笑)
…あわわわわ、もう絶句。なんてこと言うの、先生! これまでやってきたことを、根底から覆すなんて!!
いや、でも、確かに。本当におっしゃるとおりで、二の句が告げず。
「でもでも、先生、ゼミの先生には、いまのテーマを選んで正解だって言われたんですよぅ~~」
「まあ、色んな考え方があるからね。でもぼくは、一番やりたいことを、学部生のいま、やるべきだと思いますよ!」
ううううう、A先生、なんて恐ろしい人なの!
放心していたら、A先生に直接指導を受けている院生が、いてもたってもいられぬとばかりに一言。
「ほらね、これだから怖いのよA先生は! 私だって、「てきとーに学部卒業できればいいや~♪」と思ってたのに、A先生のせいで院にまで来ちゃったんだからー!」
すると、A先生を紹介してくれた院生も一言。
「いや、でもね、マチ子ちゃんなら絶対できると思うよ。先生のおっしゃる通り、やってみるべきだと思うよ!」
そうか、うん、そうだな。確かにそのとおりだ。
でも、コワいんだよね、正直。
だって、芸術学なんて、直接何かの資格とかお金とかに結びつくわけじゃない。ハタチやそこらなら、学芸員になるとか、教員になるとか、多少は具体的な夢を描けるかもしれない。
それでも、ここに集う私達は、知りたいことをもっと知りたくて、もっと掘り下げたくて、ただそれだけのためにやっている。私はまだアラフォーだけど、アラフィフの人、アラ還の人、もっと上の人もいる。
皆それぞれに仕事や家庭を持ちながら、寝る時間を削って、生活費を削って、身を削って。院の学費は高いから、最初から休学込みで、数年かける気でいる人も多い。そこまでして、どこに行くというのだろう。
先輩院生たちも、その問いを問いつづけながら、更なる高みを覗いている。みんな「修士を出ればもう満足」と言うけれど、先生は言う。
「いやいや、それで満足して終わりにしないで下さい。博士課程に進まなくてもいいけど、それ以外にも研究の道はある。少なくとも、学会には入ってくださいね。ぼくが話つけられるところだったら、いくらでも推薦状書くからね」
「色々な人生経験を積んできた皆さんの論文は、21、2歳の通学部の学生や、研究一筋で来た我々とは、やはりひと味もふた味も違うんですよ。そういう皆さんの研究成果が、もっと学会や世の中に周知されるべきなんです」
そう、院生たちも、みんなわかってる。「修士を出ればもう満足」なんて、本当はウソだって。
みんな、どこにでもいそうなおじちゃん、おばちゃんだよ。
でも、アツいよ。めっちゃイキイキしてるよ。
だから、簡単には諦められないんだよね。
もう、やりたいことを、やるしかないんだ。
だったら、外堀りを埋めてばかりいないで、本丸を攻めなくちゃ。どこに躊躇う理由がある?
これは何も、学問のことだけじゃなくて。
人生のあらゆる場面で。
仕事も学問も一から見直そうという矢先に、A先生の言葉は、あまりにタイムリーで、ずばり真実を言い当てていました。
そして、たまたま飲み会の機会があったこと、たまたまA先生と同席できたこと、そして、仲間がわざわざ私を紹介してくれたこと。
そのすべてを、無駄にしてはいけないなあと、いま、重く受けとめています。
本丸を、攻めろ。
おまけ:
通信制大学ライフについては、こちらをどうぞ。